
冬の朝、布団から出られない。目覚ましを何度も止めて、気づけばギリギリの時間。慌てて支度をして、薄暗い中を駅へ走る。電車に乗り込んで、ようやく一息。でも、なんだか頭がぼんやりする。午前中はずっとエンジンがかからないまま、気づいたらもう昼だ。
こんな経験、心当たりはないだろうか。
「早起きは三文の徳」ということわざは、世界中に似た表現がある。英語なら「The early bird catches the worm(早起きの鳥は虫を捕まえる)」。昔の人たちは、朝早く起きて太陽を浴びることの気持ちよさを、理屈抜きで知っていたのだと思う。
ところが現代の私たちはどうだろう。夜中までスマホをスクロールして、朝はギリギリまで寝ている。通勤は地下鉄で、オフィスでは一日中蛍光灯の下。夕方になって「今日、外の空気吸ったっけ?」と気づくこともある。
実は最近、こうした「光を浴びない生活」と体の不調の関係が、科学的にどんどん明らかになってきている。2017年には、体内時計の仕組みを解明した研究者たちがノーベル賞を受賞した。「朝日を浴びると気持ちいい」には、ちゃんと理由があったのだ。
この記事では、朝日を浴びると体の中で何が起きるのか、なぜそれが睡眠や気分に影響するのかを、できるだけ分かりやすくお伝えしたい。読み終わる頃には、明日の朝、カーテンを開けたくなっているはずだ。

1. 体内時計とは何か
私たちの体には、目には見えない「時計」がある。
この時計は、だいたい24時間周期で動いていて、「そろそろ眠くなる時間だよ」「もう起きる時間だよ」と、体のいろんな機能にタイミングを教えてくれている。睡眠と覚醒のリズムはもちろん、体温の上がり下がり、ホルモンの分泌、胃腸の動きまで、全部この時計が管理しているのだ。
この仕組みを「体内時計」と呼ぶ。学術的には「サーカディアンリズム」という名前がついているけれど、要は体に内蔵された目覚まし時計のようなもの、とイメージしてもらえればいい。
面白いのは、この体内時計が「約24時間」であって、ぴったり24時間ではないということ。研究によると、人間の体内時計は平均24.2時間くらいらしい。つまり、何もしなければ毎日ちょっとずつズレていってしまう。
じゃあ、どうやって地球の24時間に合わせているのか?
答えは、朝の太陽光だ。毎朝、光を浴びることで、体内時計は「よし、今日もここからスタート」とリセットされる。この仕組みがあるから、私たちは夜になると眠くなり、朝になると目が覚める、というリズムを保てているのだ。
| 時間帯 | 体の状態 |
|---|---|
| 早朝(起床前後) | 体温が上がり始め、起きる準備をしている |
| 午前中 | 頭がさえて、集中力がピークになりやすい |
| 午後 | 体温が一番高くなり、体を動かすのに向いている |
| 夕方〜夜 | 体温がゆっくり下がり、眠りの準備が始まる |
| 深夜 | 体の修復作業、記憶の整理が進む |
このリズム、なんとなく実感として分かる気がしないだろうか。午前中は頭を使う仕事がはかどるとか、昼過ぎはちょっと眠くなるとか。それ、全部体内時計の仕業なのだ。
2. 朝日を浴びると体の中で起きること
では、朝日を浴びた瞬間、体の中では何が起きているのか。ここからは少し専門的な話になるけれど、知っておくと「なるほど」と納得できるはずだ。
光をキャッチする特別なセンサー
私たちの目には、ものを見るための細胞とは別に、「光の明るさ」を感知するための特別なセンサーがある。これは1990年代から2000年代にかけて発見された、比較的新しい知見だ。
このセンサーは、特に「青い光」に強く反応する。太陽の光には、この青い波長の光がたっぷり含まれている。だから、朝日を浴びると、センサーが「おっ、明るくなった!」と反応するわけだ。
脳への「朝だよ」コール
センサーがキャッチした光の情報は、神経を通じて脳の奥深くにある「体内時計の司令塔」に届く。すると司令塔は、全身に向けて「朝が来たぞ、起きろ!」という指令を出す。
ここからが面白い。体内ではホルモンの大きな切り替えが起きる。
まず、「メラトニン」という眠りを促すホルモンの分泌がピタッと止まる。夜の間ずっと出ていたメラトニンが引っ込むことで、体は「もう寝ている場合じゃない」と覚醒モードに入る。
代わりに活発になるのが「セロトニン」。これは気分を安定させ、やる気を高めてくれる物質だ。「今日も頑張るか」という前向きな気持ちは、このセロトニンのおかげでもある。
さらに、セロトニンは夜になるとメラトニンの材料として使われる。つまり、朝にしっかりセロトニンを作っておくことが、夜のぐっすり睡眠につながるのだ。朝と夜は、つながっている。

3. 朝日を浴びることで得られる効果
「朝日を浴びると体にいい」とは聞くけれど、具体的に何がいいのか。研究で分かっていることを整理してみよう。
夜、ぐっすり眠れるようになる
これは多くの人が実感しやすい効果だと思う。朝にしっかり光を浴びると、その日の夜、自然と眠くなるタイミングが訪れやすくなる。寝つきが良くなった、夜中に目が覚めなくなった、という声はよく聞く。
「最近よく眠れないんだよね」という人に、私は「朝、ちゃんと光を浴びてる?」と聞くようにしている。睡眠の問題は、意外と朝の過ごし方に原因があることが多い。
午前中からエンジンがかかる
朝にしっかり覚醒モードに入れると、午前中から頭がクリアに動く。「午後にならないとエンジンがかからない」という人は、朝の光が足りていないのかもしれない。
これは仕事や勉強だけの話ではない。休日の朝、なんとなくダラダラしてしまって、気づいたら昼過ぎ。「今日も何もできなかった」と後悔する。そんな経験があるなら、午前中に一度外に出てみてほしい。たった10分の散歩で、その後の時間の使い方が変わることがある。
気持ちが安定しやすくなる
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれる。朝日を浴びることでセロトニンの分泌が促されると、気分の波が穏やかになりやすい。
特に冬場、日が短くなると気分が落ち込みやすい人がいる。北欧では「冬季うつ」が社会問題になっているほどだ。フィンランドやスウェーデンでは、朝に強い光を浴びる「光療法」が広く行われている。極端に日照時間が短い環境で暮らす人々が編み出した、生活の知恵だ。
4. 効果を最大化する時間帯と条件
「朝日を浴びればいいのは分かった。で、どうすればいいの?」
ここでは、効果を最大限に引き出すための具体的な条件をお伝えしたい。
起きたら30分以内に光を
一番大事なのは、起きてからあまり時間を空けないこと。理想は起床後30分以内、遅くても1時間以内には明るい光を目に入れたい。
起きてからしばらく暗い部屋でスマホをいじって、昼近くになってからようやく外出する。これだと体内時計のリセット効果は弱くなってしまう。
10〜30分で十分
長時間浴び続ける必要はない。10〜30分程度で効果は得られる。1時間も2時間も日光の下にいる必要はないし、むしろ紫外線のことを考えると、長すぎるのは良くない。
屋外に出るのが一番
ここが意外と見落とされがちなポイントなのだけれど、室内と屋外では明るさが全然違う。
普通のオフィスや家の照明は300〜500ルクスくらい。一方、曇りの日の屋外でも2,500〜10,000ルクス。晴れた日なら10,000〜100,000ルクスにもなる。桁が違うのだ。
| 環境 | 明るさ(ルクス) |
|---|---|
| 室内照明(オフィス・家) | 300〜500 |
| 曇りの日の屋外 | 2,500〜10,000 |
| 晴れの日の日陰 | 10,000〜25,000 |
| 晴れの日の直射日光 | 50,000〜100,000 |
「窓際にいるから大丈夫でしょ」と思いがちだけれど、ガラス越しでは光量が減るし、建物の影響もある。できれば、短時間でも外に出てほしい。
太陽を直視する必要はない
念のため書いておくと、太陽を直接見つめる必要はまったくない。むしろ目を傷めるので絶対にやめてほしい。明るい屋外にいて、自然と目に光が入っていればそれで十分だ。
ただし、サングラスをかけていると効果は減る。朝の散歩のときくらいは、サングラスなしで歩いてみてほしい。

5. 季節や地域による日の出の違い
日の出の時刻は、季節や住んでいる場所によってかなり違う。これを知っておくと、自分の生活リズムを考えるときに役立つ。
夏と冬で2時間以上違う
日本の場合、東京を例にとると、夏至(6月下旬)の日の出は4時25分頃。冬至(12月下旬)は6時50分頃。その差は2時間以上もある。
冬の朝、「起きるのがつらい」と感じるのは、寒いからだけじゃない。目覚ましが鳴る時間になっても、まだ外が真っ暗なのだ。体内時計をリセットしてくれる光がないまま一日が始まるから、エンジンがかかりにくいのは当然とも言える。
住んでいる場所でも変わる
赤道に近い地域では、一年を通じて日の出・日の入り時刻の変動が小さい。でも高緯度の地域、たとえば北欧やアラスカでは、冬に日照時間が数時間しかない日が続く。逆に夏は夜中まで明るい。
こうした地域に住む人々は、人工的な光をうまく使って体内時計を調整している。北欧で光療法ライトが普及しているのは、「そうしないとやってられない」という切実な事情があるからだ。
まず、自分の地域の日の出を知ろう
体内時計を整えるための第一歩は、自分の住んでいる地域の日の出時刻を把握すること。季節ごとにどう変わるかを知っておけば、「冬はちょっと早く寝よう」「夏は早起きして朝活しよう」といった調整がしやすくなる。
▶ あなたの地域の日の出時刻を確認する: https://worldsunmoon.com/ja/sun/
6. 体内時計が乱れるとどうなるか
体内時計が乱れた状態が続くと、体はいろんなサインを出してくる。「なんとなくだるい」で済めばいいけれど、放っておくと深刻な不調につながることもある。
眠れない、起きられない
一番分かりやすいのは睡眠の問題だ。夜になっても眠くならない。眠れても夜中に何度も目が覚める。朝、起きるのが本当につらい。こうした症状に心当たりがあるなら、体内時計の乱れを疑ってみてほしい。
慢性的な睡眠不足は、日中の眠気やミスの増加につながる。車の運転中にヒヤッとした経験がある人もいるのではないだろうか。
太りやすくなる?
最近の研究で、体内時計の乱れが代謝にも影響することが分かってきた。夜勤を長く続けている人は、肥満や糖尿病のリスクが高まるという報告がある。同じものを食べても、食べる時間帯によって体への影響が違う可能性があるのだ。
これはまだ研究途上の分野だけれど、「夜中のラーメンは太る」という経験則には、科学的な裏付けがあるのかもしれない。
気持ちが不安定に
体内時計の乱れは、気分にも影響する。なんとなくイライラする、やる気が出ない、理由もなく落ち込む。こうした症状と睡眠の質の低下は、密接に関係している。
こんな人は特に注意
夜勤やシフト勤務の人、海外出張が多い人、夜型生活が定着している人、日中ほとんど外に出ない人。これに当てはまるなら、意識的に光の浴び方を工夫した方がいい。
7. よくある誤解
体内時計と光については、けっこう誤解が多い。ここで代表的なものを解いておこう。
「部屋の電気を明るくすれば同じでしょ?」
残念ながら、室内の照明と太陽光では明るさが桁違い。どんなに明るい部屋でも、体内時計をリセットするには光量が足りない。「電気全部つけてるから大丈夫」とはいかないのだ。
「曇りの日は意味ないよね?」
これもよくある誤解。曇りの日でも、屋外に出れば室内の何倍もの光を浴びることができる。雨の日だって、外に出る価値はある。天気を言い訳にしないでほしい。
「長く浴びるほどいいんでしょ?」
10〜30分で十分。何時間も日光を浴び続けても、体内時計への効果はそれほど変わらない。むしろ紫外線による肌へのダメージが心配になる。効率よく、短時間で浴びるのが正解だ。
「夜のブルーライトカットだけしてればOK?」
夜にスマホのブルーライトを避けるのは確かに有効。でも、それだけでは片手落ち。朝の光入力と夜の光制限、両方セットで効果が出る。どちらか一方だけでは不十分なのだ。
8. 今日から始める朝の光習慣
理屈は分かった。で、具体的に何をすればいいのか。
特別な道具は必要ない。お金もかからない。ちょっとした習慣の積み重ねで、体内時計は整っていく。
朝、まずカーテンを開ける
起きたら、とにかくカーテンを開ける。これだけで部屋に入る光量がぐっと増える。できれば、遮光カーテンではなく、朝日が少し透けるタイプにしておくと、自然に目覚めやすくなる。
窓際で朝ごはん
朝食を食べるなら、窓際のテーブルで。食べながら自然に光を浴びることができる。忙しい朝でも、これくらいならできるはずだ。
10分でいいから外に出る
一番効果的なのは、やっぱり屋外に出ること。通勤で駅まで歩く。ゴミを出しに外に出る。コンビニまで飲み物を買いに行く。犬の散歩をする。ベランダでコーヒーを飲む。
10分でいい。15分でいい。この「外に出る」という行為が、体内時計を最もパワフルにリセットしてくれる。
在宅勤務やリモートワークで外出機会が減っている人は、午前中に散歩の時間を設けてみてほしい。運動不足の解消にもなるし、頭もすっきりする。私自身、在宅で仕事をしていた時期、午前中の散歩を習慣にしたら、午後の生産性がまるで違った。
夜は光を抑える
朝の光を活かすには、夜の過ごし方も大事。夕方以降は部屋の照明を暖色系に。寝る1〜2時間前からはスマホやパソコンを控えめに。寝室はできるだけ暗くして眠る。
「夜更かしして、朝日を浴びて、また夜更かし」では効果は出ない。朝と夜、両方を意識することで、体内時計は安定していく。
9. 太陽光の代わりになるもの
「冬は日の出が遅くて、出勤前に太陽を浴びられない」「仕事の都合で、どうしても屋外に出る時間が取れない」
そんな人には、人工的な光を使う方法もある。
光療法ライト(ライトボックス)
光療法用に作られた専用のライトは、10,000ルクス以上の明るさを出すことができる。朝食を食べながら、このライトを顔の近くに置いて30分ほど浴びれば、太陽光に近い効果が得られる。
北欧では広く普及していて、冬季うつの治療法としても医学的に認められている。日本ではまだ一般的ではないけれど、ネット通販などで購入できる。
選ぶときのポイントは、10,000ルクス以上の明るさがあること、紫外線がカットされていること、信頼できるメーカーの製品であることだ。
注意点も知っておこう
光療法ライトは便利だけれど、注意点もある。目の病気がある人は、使う前に医師に相談した方がいい。また、夕方以降に使うと逆効果で、夜眠れなくなることがある。使用は朝に限ること。
そして、光療法ライトはあくまで太陽光の代替手段。可能であれば、やっぱり本物の朝日を浴びるのが一番だ。
10. よくある質問
Q. 何時に起きるのが理想ですか?
日の出に合わせる必要はない。大事なのは、起きた後にできるだけ早く光を浴びること。6時に起きても8時に起きても、起床後30分以内に明るい光を浴びれば大丈夫。ただし、昼過ぎに起きるような極端な夜型生活は、少しずつ前倒しにしていった方がいい。
Q. 目を閉じていても効果はある?
まぶたを通しても光は多少届くけれど、効果は弱まる。目を開けて、明るい方向を見ているのがベスト。繰り返しになるけれど、太陽を直接見つめる必要はない。
Q. 夜勤の人はどうすればいい?
正直、これは難しい問題。基本的な考え方としては、勤務開始前に光を浴びて覚醒モードに入る、帰宅時はサングラスで光を避けて眠りやすくする、という方法がある。でもシフトパターンによって最適解は違うので、困っているなら睡眠専門医に相談することをお勧めする。
Q. 子どもにも効果はある?
ある。むしろ子どもの方が光の影響を受けやすいとされている。朝は自然光で起こす、朝食は明るい部屋で、登校時に外を歩く。こうした習慣が、子どもの睡眠リズムを安定させる。夜のスマホやゲームの時間を制限することも大切。
Q. 冬になると気分が落ち込むんだけど、効果ある?
光療法は「季節性感情障害(SAD)」の治療法として確立されている。症状が軽ければ、朝の光浴を意識するだけでも改善することがある。でも症状がつらいなら、光療法ライトを試すか、医療機関に相談してほしい。我慢しなくていいのだ。
まとめ
朝日を浴びると、目の奥にある特別なセンサーが「朝が来た」という信号を脳に送る。すると体は覚醒モードに切り替わり、眠りのホルモンが引っ込み、やる気のホルモンが出てくる。この仕組みが毎日ちゃんと働くことで、夜はぐっすり眠れて、朝はすっきり起きられて、日中は頭がさえる、という好循環が生まれる。
効果を得るためのポイントは、起床後30分以内に、10〜30分程度、できれば屋外で光を浴びること。曇りの日でも効果はあるし、特別な道具も必要ない。
私たちの祖先は、太陽とともに起き、太陽とともに眠る生活を何万年も続けてきた。現代の生活は、その環境からかけ離れてしまっている。だからこそ、意識的に朝の光を取り入れることが大切になる。
難しいことはいらない。明日の朝、起きたらカーテンを開けて、少しだけ外の空気を吸ってみてほしい。それだけで、一日の始まり方が変わるかもしれない。
▶ 今日の日の出時刻をチェック: https://worldsunmoon.com/ja/sun/
出典・参考文献
- Jeffrey C. Hall, Michael Rosbash, Michael W. Young「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」(2017年ノーベル生理学・医学賞)
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2017/summary/ - Sleep Foundation「Light and Sleep」
https://www.sleepfoundation.org/bedroom-environment/light-and-sleep - Harvard Medical School「Blue light has a dark side」
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/blue-light-has-a-dark-side - 国立精神・神経医療研究センター「睡眠と体内時計」
https://www.ncnp.go.jp/ - NIH(米国国立衛生研究所)「Circadian Rhythms」
https://www.nigms.nih.gov/education/fact-sheets/Pages/circadian-rhythms.aspx
